適当な日常を綴る’

万年五月病患者が惰性で書き続けるブログ

生きものの記録 ★★★★★★★★☆☆

生きものの記録

生きものの記録

タイトルを見て「小学生の自由研究かな?」と思ったけど全く関係なかった。水爆の恐怖に怯える老人・喜一が、一家ごとブラジルに移住しようとして
家族と対立し、裁判所から禁治産者の認定を受けるという過程を経て気が狂ってしまう、というストーリー。反核作品、と言うと分かりやすいですが、戦争の描写はないので少し異質かも。


タイトルの「いきものの記録」というのは、作中で喜一の妾の父親(なんか人間関係がややこしい)が水爆に関する新聞記事を読みながら言う
「日本は放射能が流れて集まってくる谷間みたいなものらしい。そうなると谷間に住んでいる我々生きものは一体どうなるんでしょうねえ。」みたいなセリフから。
つまり、「いきもの」というのはおそらく人間のことなんですね。実質『人間の記録』。…一気にネーミングセンスのないタイトルになってしまった。


当時の背景はよく分かりませんが、とにかく南米だけは核の脅威に晒されず安心だ、と主人公は信じていて、愛する家族と共に全員でブラジルに移住しようとする。
一方、家族には今の日本での生活基盤があるから当然移住には反対する。別に今日明日水爆の被害を受けるわけじゃないのに移住する意味があるのか、と。
それに対し主人公は「実際に戦争になってからでは遅いんだ」と主張するわけですね。結局妻以下数人は絆されて同意するものの、裁判で負けてブラジルへの移住は叶わず、結果が発狂。


この作品の面白いところは、見ているうちに、果たして正しいのは老人のほうなのか、それとも家族の方なのかが分からなくなってくるところだと思います。
視聴者と同じ目線に立つキャラクターとして、家裁の調停委員を務める歯科医・原田を配置し、実際に苦悩する様子を描いていることからもそれが分かりますね。
核問題にももちろん言えることだと思いますが、「今すぐ行動しなくても当座は何もなく過ごせるが、いつかは表面化するであろう問題について、対処するのか、目を逸らすのか」。
敷衍すると、こういうテーマを描いているのではないでしょうか。現実の生活との折り合いを考えると難しい問題だとは思いますし、信念に従って行動した結果が発狂だからな…。


年の割にエネルギッシュな老人を演じる三船敏郎の演技はかなり様になってましたし、逆に三船敏郎より年下を演じる志村喬という異色の配役。
終幕後の音楽もおどろおどろしくて耳に残るし、後味が悪いけど考えさせられる作品でした。黒澤作品で唯一赤字だったらしいけど、まあ仕方ないかな…。