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明朗・潑溂・無邪気なブログ

山椒大夫 ★★★★★★★★★☆


「人は慈悲の心を失っては人ではない。己を責めても人には情けをかけよ。」


西鶴一代女』『雨月物語』とこの作品で3年連続ベネチア国際映画祭入賞、という日本人唯一の記録を持っているらしい。純日本風の物語って逆に海外で評価されるんだなあ、と。


安寿と厨子王』は子供のころ絵本で読んだ気もするけど記憶があいまいだし、森鴎外の『山椒大夫』も読んだことがなく、あらすじくらいは知っている、という状態でした。


安寿と厨子王が人買いに騙されて山椒大夫に売られ、そのまま奴隷として子供時代を過ごす。ある日安寿が命と引き換えに時間を稼いでいる間に、厨子王が都へ逃げ延びて、身の上を知っている
関白に助けられて国主となり、奴隷を解放して山椒大夫を国外追放。復讐を果たしたのち、佐渡に流されて盲人となっていた母親と最後に再会を果たす、という筋立て。
ところどころ脚色した部分はあるものの、大筋では自分が知っている話と同じでした。ただ山椒大夫が奴隷を拷問するシーンとか、厨子王の母が逃げられないように足を切られるシーンとか
リアリティを追求するあまり、見ていて痛々しい箇所がいくつかありましたね。迫真の演技すぎて怖いんだよな…。


雨月物語』でも源十郎とその妻・宮木が湖畔で別れるシーンがありましたが、今作でも安寿と厨子王が母と離れ離れになるのは舟であるのに加え、安寿の入水という山場もある。
溝口監督の作品においては「水」が象徴的に使われているということなんでしょうか。厨子王と母親が再会を果たすラストシーンでも、最後に海を映して終わりますし。


厨子王は少し頼りないようにも見えましたが、その分兄を健気に励ます香川京子演じる安寿と、田中絹代演じる母が際立っていたと思います。やっぱり、女性に力点が置かれているんですよね。
尺の都合上、後半が割とご都合主義なところはありましたが、親子愛、兄弟愛、身分制度…と、沢山の重いテーマを盛り込んだ、非常に重厚な作品でした。名作だと思います。