適当な日常を綴る’

万年五月病患者が惰性で書き続けるブログ

晩春 ★★★★★★★★★☆

晩春 デジタル修復版

晩春 デジタル修復版


「幸せは、待ってるものではなくて、やっぱり、自分たちで作り出すものなんだよ。」


東京物語』『麦秋』と観たので所謂三部作の残りも、ということで。公開順と逆に観てしまったけどまあいいか。テーマは『麦秋』と同じく、娘の結婚を心配する父親の話でした。
妻を亡くし、娘の紀子と2人で暮らす大学教授・周吉。周吉の妹が再婚相手を紹介してきたので、自分の再婚を機に娘を結婚させようとするも、娘はこのまま父と暮らしたがる。


再婚を不潔だ、と言う紀子からは当時との価値観の違いを感じました。それ以上に、27歳なのに父と一緒にいたいから結婚したくない、とかどんなファザコンだよ、と思いましたけどw
紀子にも同年代の男との交友はあるし、男性嫌いというわけではないのですが、それ以上に父親との結びつきが強すぎて、親離れできないんですよね。片親という設定も大きいのかも。


あらすじだけ読むと平凡に見えるんですけど、実際に観てみると、とても味わい深い作品でした。印象深いシーンがいくつかあって、1つは、父と娘が2人で能を観に行く場面。
観劇中なので2人は一言も発しないんですが、周吉が離れた席の女性に会釈をする。それを見て紀子も会釈をするんですが、父の再婚相手の女だ、と気づいて表情を一変させるんですね。
紀子を演じる原節子は、映画が始まってからずっとニコニコしているんですが、再婚相手の姿を認めた瞬間、嫉妬からとても怖い顔になる。それとは対照的に、周吉は楽しそうに観劇している。
会話は1つもなく、ただ視線と表情の変化があるだけなのに、というより、だけだからこそ、心情の変化が分かる。妄想で考察するのは苦手ですけど、小津作品は自然に酌めるのが良いですね。


笑える要素もちりばめられていて、周吉の妹が境内で財布を拾ってそのままパクろうとするシーンはラウンドワン千日前店かよ、って感じでしたね。杉村春子コメディリリーフとして優秀。
あとは最後まで姿が出てこない、紀子の結婚相手ですかね。ゲーリー・クーパーに似ているけど名前は熊五郎。この辺の軽妙な会話も監督のセンスなのかなあ。


父と娘で京都旅行へ行って、やっぱり結婚したくない、と父に吐露する紀子を周吉が諭す、冒頭のセリフは間違いなく名シーンなんですが、ここまでずっと飄々として本心を見せず
娘の幸せを願い、自分も再婚するから、と言ってまで嫁がせた周吉が、実は再婚は嘘だったんだ、と言うのは驚きましたね。「一世一代の嘘」だ、と語る周吉。
そして、一人になった部屋で、不器用な手つきでリンゴの皮をむきながら、黙って項垂れるラストシーン。下手に言葉を口にしたり、涙を見せたりしないからこそ伝わる余韻。
今作はややメッセージ性が強いだけに、それでいてなお残る余白についても思いを巡らせられる、少し三部作の残りとは味わいの異なる作品でした。他の作品も観たくなるなあ。