適当な日常を綴る’

万年五月病患者が惰性で書き続けるブログ

キ上の空論#11 『紺屋の明後日』@あうるすぽっと

「夫の葬儀中、そこに来た夫の同僚に一目ぼれをした未亡人。その夜に息子を殺害した。未亡人が息子を殺した理由は?」

これ、有名なサイコパス診断ですけど、このタイプのサイコキラーが出てくるとは思わなくて驚きました。名塚さん演じる飯田、不気味だったな…。


…さて、今日は夕方から、池袋で舞台を観てきました。


kijyooo.com



実は最初から行こうと思っていたわけではなかったのですが、先日終了した、黒沢ともよさんのラジオの中で、度々この舞台の稽古の話をされていたので気になっていて。
いつだったか、オープニングトークでかなりの尺をとって今作の魅力について語っておられるのを聞き、「殺人事件の加害者と被害者」というテーマにも惹かれたので観に行くことを決めました。
「ふらっと遊びに来てください」とか仰ってましたしね。1000km近く離れてるし、ふらっと、という距離でもなかったんですが。あくまで気持ちだけふらっと。
飛行機が若干遅延してどうなることかと思いましたが、どうにか開演に間に合って良かったです。初めて飛行機会社のアプリ入れてみたけど便利ですね。チェックインが楽。

岐阜県のとある町。
定食屋で働いているツヅリは、新入りの辺見に仕事を教えていた。不器用で愛想のない辺見を苦手に思うツヅリだったが、ある日、同じキーホルダーを身につけている事に気づき、
それをきっかけに仲が深まっていく。やがてツヅリは辺見に特別な感情を抱くようになる。


月日は流れ、定食屋の仕事に慣れてきた辺見は、店長の幸村と、従業員の蘭と一緒に『パブ・アクア』へ飲みに行く事に。一方ツヅリは、飲み友達の絵美とアクアに向かった。
たまたま合流した5名は酒を酌み交わすが、ツヅリは絵美の様子がおかしい事に気づく。後日、絵美に電話すると、21年前に自分の姉が辺見に強姦され殺されたと言うのだ。
ツヅリは、真剣に話を聞くふりをして、まったく信じていなかった。


隣町での出来事-。
清掃のアルバイトをするヨシトは、休憩中に女子中学生のアイネと出会う。なんとなく話を始めた2人は、日が経つに連れ、互いに心を開くようになる。
数ヶ月後、LINEを交換した2人は毎日のように連絡を取るようになっていた。
だが突然アイネとの連絡が途絶えてしまう。アイネは何者かに殺されていた。


隣町で起こったアイネの事件を知り、ツヅリは辺見について調べ始める。そんな中、便利屋を名乗る阿部に辿り着く。


一方、絵美はヨシトと接触し、辺見への復讐を目論むのだった・・


あらすじが公式サイトにあったので貼っとこう。舞台上のビジョン?に「PHASE:○」みたいな表示が出てきてスピーディーに転換したり、
定食屋の机と、あとは立方体の椅子くらいしかセットがないのに、場面場面で様々な小道具として使って見せる演出。
時系列をバラバラにし、同じ場面を後から別の人物の視点で描き直すことで、さっき言った言葉を重層的に描き出す手法。変化球でしたが、とても面白かった。


演出こそ奇抜でしたが、ストーリー自体は、21年前の殺人事件の犯人と、隣町で起こった、よく似た殺人事件の真相を…という、割と王道で分かりやすいもの。
和やかに進んでいく序盤から一転、中盤以降は重い展開が続き、その中にもたまに笑える場面があったりして。2時間半近く休憩なしで、観てるだけで少し疲れた(


21年前の殺人事件は、当事者以外から見たら過去の話かもしれない。でも、被害者家族からしたら、ずっと終わっていない、今も続く話。
そして、加害者自身も、「いつまで贖罪すれば終わるのか」と思い、苦しみ続けている。とても難しい問題を扱っているんですよね。


でも、ニイナのように、殺された家族の分まで前向きに生きよう、と思う気持ちもまた、心の動きとしてはありえる話なんだよなあ、と。一方で、復讐を企む絵美の気持ちも理解できる。
理性的な行動と、感情的な行動の境目って、いったいどこにあるんだろう、と。絵美の「私が狂っとるんかねえ!?」という悲痛な叫びが、まだ頭から離れません。


一方、観客の側としては「出所したあと、定食屋で働く辺見」を長く見ているため、ツヅリのように、辺見側にともすれば肩入れしそうになるんですけど、そこはとてもバランス感覚が良くて。
終盤の行動や絵美との会話、そしてラストの独白を聞いていると「やっぱり普通の感覚ではないな…」と感じるんですよね。本当に、何が正しいのかわからなくなってくる。
救いのない話ですけど、結局は「苦しみ続けなければならない」というのが答えなんでしょうか。外野はともかく、当事者間にとっては、年月が解決してくれるような単純な問題ではない。


新垣里沙さんを始め、演者の皆さんの演技に生の温度を感じる、良い舞台でした。まるで現実と空想の狭間にいたような感覚。来てよかった。良い縁に恵まれました。
行った動機でもあるので絵美についても書いておくと、彼女が一番感情を露わにするキャラクターだったのでは。
酒に酔うところ、必死に電話をするところ、辺見に詰め寄るところ…。「役者」としての演技を存分に堪能できたと思います。やっぱりこの人すごいわ。