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一人息子 ★★★★★★★★★☆

一人息子

一人息子

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

信州の田舎でたった一人の息子を進学させるために田畑を売り、身をけずって働いていた母が、年老いてから東京の息子に会いにやって来る。
だが、大学を出て出世していると思っていた息子は夜学の教師にすぎず、妻子とともに貧しい暮らしを送りながら将来への野心も失っていた…。


一月ぶりに小津作品を。後年の作品は結構観たので、少し古めのを、と思って初のトーキー作品を観ることに。1936年公開。84年前か…。
ところどころフィルムが傷んでて雑音がひどい箇所がありましたが、まあこれだけ古ければ仕方ないか。そもそも監督作の3分の1は現存してないですしね。


出世してほしい、と女手一つで必死に働いて一人息子を進学させ、上京させた母親。十数年後に東京に会いに行ってみると、貧しい暮らしをしている息子を見て失望する…。
小さいすごろくの上がりに到達したようなものだ、東京で出世する人なんてほんの一握りだ、僕だって頑張った、と母親に言い訳を並べ立てる息子。
彼の才能を見出して進学を応援してくれた当時の先生も、上京はしたものの、とんかつ屋で糊口をしのいでいる。仕方ないのだ、と。
それに対して「頑張ったと言うけど、人生を諦めているだけじゃないか。まだ若いのに。その根性が情けない」と憤り、妻と泣く母親。そして訪れる沈黙。


これで終わったらキツいだけの作品ですけど、後半はその息子が思わぬ善行をして母親を感動させるんですよね。出世だけが人生ではない、と。
ハートフルなお話だったのか、と思わせておいて、ラストで座って寂しそうに物思いに耽る母親。あのドラマを経てなお、やはり割り切れない親心。なんと深い作品だろう。


観終わって、こういうのを観てしまうと否応なく身につまされるなあ、というのがまず1つ。勿論時代性は全く違うけど、果たして自分は親孝行できているだろうか…と。
別に夜学の教師でも、妻と子供と慎ましやかに暮らしているだけで充分すぎるだろ、と思ってしまうのは現代の価値観か。日中戦争の前年に公開されたんですよね、これ…。


自分のことは置いといて、既にこの時期には「小津調」が垣間見えるのも面白いですね。例えば、所謂「父と娘もの」が母と息子の構図になっているし。
恩師が飲食で糊口をしのいで、というのは『秋刀魚の味』。親の寂しそうなシーンで終わるのはそれこそ『晩春』とかいくらでもあるし。味わい深い。
原節子の結婚モノは一通り観たし、小津作品はしばらくいいかな、と思ってましたが、知名度の高い作品以外も面白いですね。もう少し色々観てみようかな?