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日本の悲劇 ★★★★★★★★★★

日本の悲劇

日本の悲劇

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


戦争未亡人の春子は、熱海の旅館で働いている。敗戦後の混乱のなかで彼女は歌子と清一という二人の子供を抱え、かつぎ屋や怪しげな女としての商売までやらねば生きていけない。
おまけに唯一の財産だった土地も義兄夫婦に騙し取られる。時がたち、歌子は英語塾に通い、清一は医科大学に進学。春子には二人の将来がなによりの生きがいだった・・・。
木下惠介には珍しいリアリズム色濃い作品。春子をとことん追いつめていく木下惠介の厳しい演出は見事である。望月優子の力演と桂木洋子の可憐さが印象的。


こんなストレートなタイトルだし、どうせバッドエンドなんでしょwとか思いながら観ていたら、想像を絶するような重い映画で驚いてしまった。
最近はどちらかというと優しい作風の作品を多く観ていたので、これもそういう人情ものかと思いきや、とにかく重く苦しい。
「人間を描く」という意味では、これほど真剣な映画もなかなかないような気はしますが。「親子の断絶」という、現代にも通じるテーマですね。
戦争未亡人が苦労する、というモチーフは、戦後1桁年のこの時代には珍しくなかったんだとは思います*1が、ここまで救われないとは。


あの時代に芸者やら何やらカタギでない仕事も色々して苦労し、二人の子供を医大にやり、英語塾に通わせるまでにした母親の春子。母親の立場から考えたら、立派としか言えないんですよね。
にもかかわらず、子供たちから観たら、母親が汚い仕事をしているのが耐えられない。娘はあんな母親がいるから嫁の貰い手がないし、親戚に暴行されて男性不信になるし。
息子は戦争で子を亡くした医者の老夫婦の養子になりたい、と言い出し、「母親を見捨てないでおくれ」と泣く春子。それを冷たくはねのける息子。観ていてあまりにも辛い。
「お母さんは世の中を知った気でいるけど、酒と男を知ってるだけだろ」とまで言われて「久しぶりにお母さんと呼んでくれたね」とか言うんですよ。このすれ違いがな…。


生活の安定を考えたら、駆け落ちした娘はともかく、息子の決断は決して一方的に責められるべきものでもない。それは分かるんですが、人生を賭して育てた母親を馬鹿呼ばわりするのはな…。
「自分の代わりに偉くなってもらって楽したいだけだろ」とか、もし自分が親にそんなこと言ったら殴られても文句は言えないと思うけど、やっぱり時代の違いか。胸が痛みましたね。
『日本の悲劇』、てっきり戦争か何かのことだと思ってましたが、そんな単純なものではなく、戦後の混乱から立ち直ろうとする中で生まれた親子の価値観の溝だった。
ラストの展開も本当に救いがなさすぎて悲劇だけど、決してそれだけじゃないよな、と。もっと言えば、駆け落ちした娘が行き着く先も、おそらくは悲劇だよな…。本当に恐ろしい作品。


木下監督の代表作は『二十四の瞳』なのかもしれないけど、今まで観た10作弱の中では間違いなく一番の傑作でした。
満点つけるのはほぼ好みの作品だけど、今作は単純に圧倒されてしまったので、好みでないのを差し引いてもこの評価ですね。木下監督の社会派モノ、もう少し観てみようかな。

*1:浮雲』とか『赤線地帯』とか、他の監督作品でもいくつか観たので