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わが青春に悔なし ★★★★★★★★☆☆

わが青春に悔なし

わが青春に悔なし

先週『東京物語』を観た時に原節子の出演作品を他にも観たいなー、と思ったので、主演作品のこれ。70年前の作品で、戦後まもなく公開されたプロパガンダ映画でした。GHQの検閲を受けてたとか時代だな…
女優目当てではありましたが、滝川事件とゾルゲ事件がモチーフで京大が舞台として出てくる、というのはゲームの知識で知っていたので、気になってはいたんですよね。気になったらすぐ観るのが大事。
吉田キャンパスの正門とか結構出てきたのでおおーっ、って思いながら観てました。


京大教授の娘である主人公・幸枝が京大事件後、左翼運動に身を投じた学友の野毛に惹かれて単身上京し、結婚。その後野毛が戦争を妨害したとして逮捕され獄死して未亡人になる、までが前半部。
後半はゾルゲ事件がモチーフということで野毛の両親の家に行ったらスパイ・売国奴扱いを受けて迫害される…というもので、もともと後半は脚本を書き直させられたとかでやや歪な印象を受けました。


印象に残ったのは何と言っても大河内傳次郎演じる八木原教授の「自由とはその裏に苦労と責任を背負っている」というセリフですね。出身高の基本理念にかなり近しいものを感じるというかほぼそのままというか(
幸枝は大学教授である親の庇護を受け続けられたのに、あえて左翼の野毛を追って自活し、スパイだと誹られながらも農村で畑を耕すんですよね。自分で人生を選ぶということは当然責任がついて回る、ということを
描いている。プロパガンダ映画と書いたんですが、決して反戦映画でもなければ*1もちろん戦争賛美でもない。この作品で主張されているのは、戦争が終わったことで得ることができた自由への讃歌だったように思います。


タイトルにもあるように活動的な若者を描いた青春映画でもあるわけなので、つい幸枝や野毛に感情移入してしまい、現実主義の糸川は嫌な奴だなあ、と表層的に見てしまいそうになるのですが、冷静に考えてあの時代に
左翼活動をしてアジアとの関係の私論とか論文書いたりする男とそれを追って上京するような女は狂人とまでは言わないですが常軌を逸してますよね。バイアスがなければ糸川の方がよっぽど常識人だし安定もしている。
同じ黒澤作品の『生きる』を観た時も思いましたが、その日暮らしが必ずしも悪ではないし、現実にはほとんどの人は映画の主人公みたいな人生は送らないんですよね。幸枝が正に「何のために生きているかわからない」
みたいな悩みを野毛に吐露するシーンがありましたが、自分からしたら「健康で生き続けられていればそれでええやん」とか思ってしまいますしね。まあ70年前の映画を現代の感覚で見るのはそもそもおかしいんですけどw

*1:いやまあ要素がゼロではないと思いますが