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【麦秋】熟した麦を取り入れる、初夏のころ。むぎあき。
最近黒澤作品ばかりだったので、気分を変えて小津安二郎作品を。以前に『東京物語』は観ていたので、折角なら所謂「紀子三部作」の残り2作品も見るか、ということで。むぎむぎ。
北鎌倉に住む間宮家の長女・紀子が28歳になってもなかなか結婚しないので、家族みんなで気を揉んで、縁談を取り付けるも、結局兄の友人で男やもめの矢部と結婚する、という流れ。
『麦秋』というタイトルは、紀子がなかなか結婚せず、ようやく遅い春が来たことを麦に例えているのでしょうね。28歳で行き遅れとか、今と価値観違うとはいえ怖いわ…。
時系列では逆ですが、『東京物語』の後に観ると、共通項の多さに気づかされますね。主演の原節子、母親役の東山千栄子。笠智衆や杉村春子といった面々も同じですし
中心点こそ違えど、戦後日本の大家族を描いたストーリー、という点も似ている。『東京物語』では老いた母が亡くなることにより、直截的に家族の喪失を描き出していますが
今作では、紀子が嫁ぎ、秋田へ行ったことがきっかけで、両親夫婦は奈良へ隠居。間宮家もバラバラになってしまう。原因は違いますが、着地点は似ていますね。
今作で特筆すべきは、なんといっても時代を先取りしたジェンダー観ではないでしょうか。主人公の紀子は、28歳で結婚もせず、会社勤めをし、休日は友人と女子会に興じる。
そして最終的には縁談を蹴って恋愛結婚。なんとモダンなことか。これ、1951年の作品ですからね。戦後6年。どれだけ時代を先取りしてるんだよ、と。本当にすごい。
『東京物語』では貞淑なイメージだった原節子は、今作ではとても感情豊かに笑い、動き、自由に生きる女性を演じていて、とても可憐でした。日本人離れしてるよな…。
『東京物語』の感想に、当時「自分を映す鏡のような作品だと感じました」と記していたんですが、この作品についても同じ感想ですね。
小津作品が国内のみならず国外でも高い評価を得ているのは、古今東西の別なく、社会生活を営む人間に共通する、普遍的なテーマを描いているからなんでしょうね。
実際、自分も先日祖父が亡くなった、という経験をした今、『東京物語』をもう一度観れば、おそらく前より実感を伴った見方になるはず。折に触れてまた観たい、スルメ作品ですね。