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肉体の悪魔

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)


「悲しいのは、命に別れを告げることではない。命に意味をあたえてくれるものと別れることだ。」


三島由紀夫が好きだった、という程度の知識しかなかったラディゲ。薄かったのですぐ読み終わるかな、と思いきや、文章が重く、予想より時間かかりました。
主人公の早熟な少年「僕」が、第一次世界大戦に出征し留守にしている夫のジャックがいないうちに、人妻・マルトと不倫関係になる、というお話。


ストーリーだけ書くと全く面白くなさそうなんですが、この作品の魅力はストーリーではなくその文章なんですよね。主人公のエゴに塗れた行動、不倫を正当化する身勝手な理論。
ただ、身勝手ながら、「僕」の考えや言葉はとても重く、読んでいるとラディゲの洞察力の高さに驚かされる。これを10代で書いたって…天才以外の何者でもない。
「幸福はエゴイストなのだ」「もし愚かな青春があるとすれば、怠惰だったことのない青春だろう」「ジャックと幸福になるより、あなたと不幸になるほうがいい」etc…
物語の中のいたるところに箴言が散りばめられていて、非常に読み応えがある名作でした。訳も平易で読みやすいのがまた良い。オススメです。