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ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)


医療用ナノマシンを体に埋め込み、人間の身体が管理された近未来。疫病が駆逐され、痛みも苦しみも感じず、誰もが健康に老衰するまでの時間を生きることができるユートピア
そんな世界にどこか暮らしにくさを感じていた3人の少女の回想から物語は始まり、少女の1人・ミァハの自殺、時が流れて監察官となったトァン、そして突然の同時多発自殺事件。


独特の世界観を説得力を持って描いた良質なSFでありながら、かつ、サスペンスとしてエンタメ性が高い。
世の中がどんどん便利になっていくにつれ、自らの手でやることが減っていく中で、「人間」を構成しているものは何なのか?という問いについて考えながら読むのは面白かったですね。


ディストピアもの、というと、構築された社会そのものがマイナスのイメージで描かれているイメージがあるのですが、この作品はそういう意味ではむしろ逆。
病気も痛みもない、人類がみな幸せに暮らせる社会で、更に終盤のハーモニクスによって更にその先に行く。つまりは真の意味でのユートピアの極地。
しかし、そのユートピアの最終到達点は、果たして幸せなのか?という命題。作中では明確に結論が出ていませんが、やっぱり幸せには見えないなあ。
何を幸せと思うか、によるんでしょうけど、少なくとも、今の自分の生活を考えたらハーモニクスはバッドエンド。というか、ほとんど人類補完計画だよな、とか読みながら思ってました。


ただ、理解力が足りないからなのかもしれませんが、終盤の展開がやや唐突に感じました。管理社会を嫌悪し、自分の身体を自由にしたい、と考えていたミァハ。
その女子高生時代のミァハの思想と、最後にミァハが目指していたハーモニクスって相容れないのではないか、という疑問が1つ。
あと、子供や辺境の民とか、WatchMeを埋め込んでない人間もそれなりの数いたはずで、そう簡単にハーモニクスが起こるのか?とか。その後時間が経って自然消滅したってことでいいのかな。


ミァハの目的が明かされた辺りで、序盤から頻繁に登場していたhtml言語みたいなやつの正体については薄々感づいてはいましたが、「さよなら、わたし」には痺れましたね。
ラストが衝撃的な作品って結構印象に残るので、やっぱり終わりは大事なんだよなあ、とか思ったりしました。『猫の地球儀』の「海が、」とかまだ覚えてるからな…。


サスペンス要素にも富むSFでありながら、作者の思想書でもある。作者の境遇からこういう着想が出てきたのか…と思うと色々思うところもありますね。機会があれば『虐殺器官』も読もう。