適当な日常を綴る’

明朗・潑溂・無邪気なブログ

オッドタクシー ★★★★★★★★★★

平凡な毎日を送るタクシー運転手・小戸川。身寄りはなく、他人とあまり関わらない、少し偏屈で無口な変わり者。趣味は寝る前に聞く落語と仕事中に聞くラジオ。
一応、友人と呼べるのはかかりつけでもある医者の剛力と、高校からの同級生、柿花ぐらい。彼が運ぶのは、どこかクセのある客ばかり。
バズりたくてしょうがない大学生・樺沢、何かを隠す看護師・白川、いまいち売れない芸人コンビ・ホモサピエンス、街のゴロツキ・ドブ、
売出し中のアイドル・ミステリーキッス…何でも無いはずの人々の会話は、やがて失踪した1人の少女へと繋がっていく。


放送当時かなり話題になり、各所で持ち上げられているのは知っていたものの、配信がアマプラ独占ということもあり、当時あまり観る気が起きず、そのままになっていた作品。



放送終了してしばらく経った今になって観てみる気になったのは、今年の文化祭で、KUALSが今作の木下麦監督によるオンライン講演会を行う、ということを知ったから。
最後に参加したのが東山奈央さんの時なので、4年前かな。今はちょっと現地参加するには遠いので、オンラインなら、と思い申込。当日までに観てしまうことに。
当初は平日に1日1話ずつ観ていたのですが、中盤からどんどん群像劇が収斂してきて面白くなっていったので、後半は休日にまとめて一気観しました。


迷惑系ユーチューバー、共依存、ソシャゲ廃人、半グレ、地下アイドル、売れない芸人、非正規雇用等々、登場人物の設定が卑近で、リアリティが感じられる。
そんな個性豊かなキャラクター達が、多くはタクシーの客として主人公・小戸川と関わり、それぞれの縁が奇跡的に繋がって、少女失踪事件の真相が描かれる。


とにかく、この「奇跡的に繋がった縁で物語が思わぬ方向に転がっていく」のが観ていてとても楽しい。まるで『ピタゴラスイッチ』を観ているような感覚というか。
ありえないような偶然が重なり、最初は点として存在していた各キャラの言動が、次第に線になっていく感覚。この辺は観た人なら同意してもらえると思いますが。
特にこのサムネにした4話の「田中革命」は、最初「これ1話飛ばした?」と思うくらい唐突な始まりでしたが、観終わってみればとんでもないキーエピソードでしたね。


また、今作はオタク心をくすぐる絶妙なサブカル臭も魅力。
自分が最初に今作に惹かれたのは、第1話で小戸川が剛力に言った「We are the world』のブルース・スプリングスティーンくらい唐突だな」というセリフ。
小戸川の言う通りクセが強いからちょっと驚くけど、でも軽く跳ねながら歌うシンディ・ローパーも良いんだよな、とか思ってたら後で回収されてまた驚いた。
「ちょっと斜め上からの、軽くペダンチックな会話」とでも表現すればいいのかな。独特な臭みのある会話、賛否両論ありそうですが、自分はとても好きでしたね。
反面、雰囲気があまりアニメ的ではないな、と感じていたのですが、最後まで観ると、今作が例えば実写ドラマではなく、アニメである必要性も分かる仕組みになっている。
東京のような世界で暮らす動物たち、という設定は、『けものフレンズ』『シートン学園』みたいな擬人化作品に慣れたオタクの感覚の盲点を突いていて、感心しました。


そして、お笑い芸人が何人かキャストに起用されているのも、プラスに作用しているんですよね。
小戸川がよく聞いているお笑い芸人「ホモサピエンス」のラジオのネタ、あれも本職の芸人だからこその独特の間合いが生まれているんだと思うし。
後半から登場するヤノは普段の会話も全てラップ調で韻を踏む、という強烈なキャラクターでしたが、あれもキャストが本職だったからこそでしょう。


手放しで全肯定というわけでもなく、力点が置かれていたフーダニットは十分楽しめたのですが、一方で真犯人の動機には少し物足りなさを感じました。
また、小戸川を中心に伏線が回収されていくのは面白い反面、あまりにご都合主義的な展開が気になるところも多少。特に白川さん、丁度いいところにいすぎだし超人すぎ。
オッドタクシー作戦にしても、追加で1億を得るというリターンとリスクが見合ってないし、「合縁奇縁で物語が動く」という特徴が行き過ぎていた印象。
意図してかせずか、後半はアクション要素が強くなりすぎていたせいで、ミステリ色が薄くなっており、その点で少しピントがボヤけていたような気もする。


ただ、そのようなご都合主義的側面を勘案してもなお、今作はとても「上手い」作品であると思います。
まず、主人公が身寄りもなく、友人も少ない中年の社会人。そこに職業柄とはいえ多くの人々が寄ってきて、好意的に接してくれる。
冴えない中年が異世界に転生して大活躍、みたいな筋書きだとあからさまですが、この設定に親近感を覚えやすい層は、結構近しいものがあるのではないでしょうか。
また、クライムサスペンスでありながら、表立っては人があまり死なず、ストレスがコントロールされている。更に公式のオーディオドラマを聴くと裏が分かるという巧みな構成。
そして、伏線は数多くありますが、決して難解ではない。観ていてもはっきり真犯人は描写されるし、明示されない謎についても、上述のドラマを聴けばほとんど補完できる。
というより、オーディオドラマを聴いていると、明示されていなかった水面下ではもっと恐ろしいことが起こっていたことに気付くし、もう一度観返したくなるんですよね。


まとめると、今作の最大の魅力は「制作陣の絶妙なバランス感覚からくる、分かりやすい面白さ」なのではないかな、と。
主人公の設定や出てくるキャラクターもどこか身近で親しみやすい。ミステリとしても難しすぎず、考察してもしなくても楽しめる。
独特の会話劇にニヤリとできる層にもウケるし、観ていてあまりにもしんどくなるような、ハードすぎる展開にもならない。
丁度良い塩梅で、少し頭を使いながら、あるあるネタを楽しみつつ、玉突き事故のように展開する物語に入り込める。良いとこ取りの作品ではないでしょうか。令和らしい…のかな?


…というわけで、週末の講演会で興味深い話が聞けることを楽しみにしています。京大アニ同、良い人選するやん(謎の上から目線)。