適当な日常を綴る’

明朗・潑溂・無邪気なブログ

ゆきゆきて、神軍 ★★★★★★★★★☆

1969年、皇居の一般参賀昭和天皇にパチンコ玉を発射(昭和天皇パチンコ狙撃事件)。
1976年、銀座・渋谷・新宿のデパート屋上から、ポルノ写真に天皇一家の顔写真を切り貼りしたビラ約4,000枚を散布(天皇ポルノビラ事件)--
自称「神軍平等兵」奥崎謙三天皇という”タブー”を打破すべく挑発・嘲弄を繰り返す、スキャンダラスな存在だった。
さらに奥崎は、天皇のみならず天皇制というシステムそのものにも解体しなければならないと、その思想を”深化”させてゆく。
ある日の撮影現場で原は、今村昌平監督(60〜90年代に活躍した日本の映画監督。『楢山節考』83『うなぎ』97でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞)から
「面白い人物がいる。会ってみないか?」と声をかけられた。それが奥崎謙三である。
ニューギニアでの従軍体験記『ヤマザキ天皇を撃て!』(72)を読んでいた原は、さっそく小林と共に奥崎の自宅を訪ねた。


…なんかヤバいものを観てしまった。序盤は頭のおかしいおっさんの奇行をずっと観せられてドン引きしていたら、途中から風向きが変わってくる。
奥崎と同等かそれを超えるレベルの存在感を放つスピリチュアルおばさんは面白かったけど、途中から出てこなくなったのは出番食われてしまうからなのかな(


「真実を明らかにする」という正論をいくら振りかざしても、異常な空間での異常な出来事を平和な今になって掘り返されるのは可哀想だし、一方で、だからこそ面白い。
神戸の下町で普通に飲食店を経営しているおじさんから人肉食の話題が出てくる辺り、かつて本当にあったことなんだな…と地続きになっていることが感じられて怖かった。


戦争を糾弾しながら、同時に「自分が正しいと判断した暴力は振るう」と言って憚らない奥崎の主張に同意することはできない、と結論づけるのは簡単だしおそらく正しい。
でも、この狂気が偶然にも戦中の人肉食い証言を引き出したのだと思うと、いくら脚色されているとはいえ、ドキュメンタリーならではの面白さがありますね。
こういう「実生活では金輪際関わり合いになりたくない人」をフィルム越しに観られるというのは、映画の利点であるのは確かでしょうね。


あと、ニューギニアに一緒に行こうと約束したおばあさんが奥崎の収監中に亡くなってしまったため、結局使われることのなかったパスポートが映るシーンは切なかったですね。
フィクションでの人の生死は、身も蓋もないことを言えば「虚構」なわけだけど、あのおばあさんの死は現実なんだよな…。観てよかったけど、しんどい映画でした。