“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。
彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。
ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。
ディストピア小説の代名詞として名前は昔から知っていたものの、こっちは読んだことはなく。観たことがない名作映画みたいな感じ。『動物農場』は中学生時代に読んだけど。
序盤は世界観を把握するまでが割と冗長で、ページを捲る手がなかなか進みませんでしたが、ジュリアが出てきてからは「なろう小説か?」と思うような展開を見せ、そしてあの第三部。
極刑に処されそうですが、一番面白かったのは、ゴールドスタインの著書を読んでいるくだりでした。1949年にこれが書かれたとは…と、名作SFを読むたびに思うけど、本当にすごいよな。
オチはある程度予測できてしまうし、エンタメ要素はあまり強くないので、そういう観点から見れば、決して単純に「面白かった」とは言えないのですが、読みながら思考を巡らせるのが楽しい。
いくつか挙げていくと、まず、独裁体制を維持するべく思想統制をする、その手段としての言語統制。この概念が興味深かった。
人間、自分の持っている語彙、知っている概念の中でしか思考できない。そこを「ニュースピーク」として簡素化することで、反抗という「概念」自体を消失させてしまう。
現代でも、限られた文字数だと(限られていなくても)、つい「最高」「エモい」「尊い」みたいな楽な言葉を使いがちだけど、多用すると思考能力自体も減衰することは意識しないといけない。
作品の核の1つとなる「二重思考」については、確かに恐ろしい概念である一方で、そこまで現代から見ても逸脱した考え方でもないよな、という思いもあり。
倫理的・合理的には正しくないことが分かっているけれど、そこに敢えて目を瞑ってやる、もしくはやらない。結構、普段生きていく中でやっていると思うんですよね…。
他にも、「最上の書物とは、読者のすでに知っていることを教えてくれるものなのだ」という箇所も好き。読書の醍醐味について、簡潔に言い表した名言だと思います。
自分の中で無意識に感じている、曖昧模糊とした何物か。それを具象化してくれる役割が良書にはあると思うし、特に古典は、思考停止で楽しむだけでなくこの手の効用が得られる期待値も高い。
でも「あちこちデモ行進したり、歓喜の声を上げたり、旗を振ったりするのはすべて、腐った性欲の現れそのものよ」という台詞は耳が痛かった。現場趣味は発散できない性欲の逃げ場なのかな(
ストーリーがどうこう、というよりも、読みながら思索するのがより楽しい、という意味で、まぎれもない名作ですね。思考停止では楽しめないと思うので、好みは分かれそうですが。
ただ、書店で見かけた帯の「世界や日本に不安を感じている人へ。この本が現実になりそうです」とかいう浅い宣伝文句には笑ってしまった。そんな表面的な読み方する奴おらんやろw