適当な日常を綴る’

明朗・潑溂・無邪気なブログ

光待つ場所へ

大学二年の春。清水あやめには自信があった。世界を見るには感性という武器がいる。自分にはそれがある。
最初の課題で描いた燃えるような桜並木も自分以上に表現できる学生はいないと思っていた。彼の作品を見るまでは(「しあわせのこみち」)。
書下ろし一編を含む扉の開く瞬間を描いた、五編の短編集。


『冷たい光の通学路』『しあわせのこみち』『アスファルト』の3編は『冷たい校舎の時は止まる』の、『チハラトーコの物語』は『スロウハイツの神様』の、
そして『樹氷の街』は『名前探しの放課後』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』のスピンオフ。ということで、講談社の辻村作品を読んだ人向けの短編集ですね。


辻村作品には「秀才ならではの悩み」を持つ人が多く登場するけど、清水あやめはその代表的なキャラクターではないでしょうか。秀才が天才に出会って挫折するパターン。
東大に入ってようやく自分を超えるような人に出会うっていうのはスケールが大きすぎるけど、実際、世の中には本当に上には上がいるのでそういうものなのかも。


樹氷の街』は、天木にもこんな尖った頃があったのか…という。そして辻村作品に出てくる女子はいつもめんどくさい。
合唱コンクール、好きに曲を選んでいいという校風だったので、EXILEとか歌った記憶があるし、あまり思い入れないんだよな。音楽会の方が真剣にやっていたような。


個人的には『チハラトーコの物語』が好きでした。『スロウハイツの神様』では悪役のような立場だったけど、こういう過去を描かれると好きになってしまう。
アニメやゲームの教養主義はもう時代が古い。だけど、好きで観て詳しくなった分の、私のこの知識に罪はない。」が名言すぎる。…いや、自分は別に詳しくないけど。
でも、「オタクの教養主義が古い」って書かれているこの作品が刊行されたの、もう10年前なんだよな…。令和では最早、誰も過去の名作を掘り返そうとしていない。