第15回 小学館ライトノベル大賞《ガガガ賞》受賞作、待望のTVアニメ化︕想い人の恋人の座を勝ち取れなかった女の子——「負けヒロイン」。
食いしん坊な幼なじみ系ヒロイン・八奈見杏菜。元気いっぱいのスポーツ系ヒロイン・焼塩檸檬。人見知りの小動物系ヒロイン・小鞠知花。
ちょっと残念な負けヒロイン——マケインたちに絡まれる、新感覚・はちゃめちゃ敗走系青春ストーリーがここに幕を開ける︕負けて輝け、マケインたち︕
©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会
例年、夏クールはほとんどアニメを観ないのですが、今年は輪をかけてアニメを全く観なくなってしまって。
流石に例年の夏クールと比べて話題作が多いように感じるのに、何も観ないのも…ということで、話題になっていたこれをチョイスしました。
自分もオタクだった頃は負けヒロイン好きでしたしね。『いちご100%』は東城、『とらドラ!』はみのりん、『俺妹』はあやせ、『五等分』は二乃。
…さて、全体の感想として、面白かった…のですが、観る前に予想していた、上記のような「負けヒロイン」の負ける過程を楽しむ作品ではなかったのが意外でした。
そもそもとして、「負けヒロイン」の魅力は負けるまでの「過程」にあるというのが持論なので、冒頭でフラれる杏菜に感情移入ができるはずもなく。
3人のヒロインがそれぞれ「負ける」という、普通のラブコメではあり得ない構成だからこそ、1人あたりに割く尺が短くなってしまうのは致し方ないことではありますが。
ただ、短い尺なりに、杏菜編で、予測不能だと思わせておいて、檸檬編では王道の失恋を描く…みたいな緩急もあり、まとまりは良かったですね。小鞠編のオチはちょっと腑に落ちないけど。
では何が面白かったかというと、一言で表現すれば「展開の読めなさ」でしょうか。「負け」た後を描くということは、ラブコメ作品ではそうそうないですからね。
そして、じゃあ主人公とすぐくっつくのか?というと、そうでもない。温水とヒロインズとの距離感は独特で、なんとも形容しがたい(もう実質付き合ってるだろ、と思うこともありましたが)。
読めないといえば、いわゆる「勝った」側、振った側も変なやつ、こじらせたやつばかり。さながら変人動物園なのは、まさにラノベアニメといったところか。コテコテの妹に逆に安心したり。
「負け」のその後を描き、更に変人ばかりで読めない展開だからこそ、次は何が起こるんだ?という興味から、どんどん観進めてしまう。そういう魅力を持った作品だったかな。
演者のある種オーバーな演技も、キャラクターを引き立てていて良かった。カバー曲に釣られるのは、加齢の証だと思うので…と言いつつ、2010年代の曲とかだと最早懐メロですらないよな。
実際、多分自分が10年若かったらもう少しハマれてたかも…とは思う。学生時代は遠い昔になりすぎて、少しずつ本気で学園モノが楽しめなくなっている感はある。
そんなことを考えながら観ていたら、ギャグ枠だと思っていた杏菜の株が最終話で上がりました。「偽装デート」という名目ではあるものの、明らかに偽装デート以上の距離感な2人。
あの観覧車の中で、2人がどんな会話を交わしたのかは明示されないものの、最終的には「そこまで言うなら彼氏を作るのはやめておく」と嬉しそうに言う杏菜。つまり…?
マークシート式の国語なら不正解なのは百も承知でも、流石にここまで匂わせられると「そもそも「偽装デート」というのは建前で、本当は…」と妄想せずにはいられないですよね。
そして、その前提で物語を思い返した時に、ヒロインとしての魅力が再評価される。なぜなら、ヒロインの魅力は「過程」にあるから。ゆえに八奈見安菜は魅力的なヒロインである。Q.E.D.