適当な日常を綴る’

明朗・潑溂・無邪気なブログ

トニー滝谷 ★★★★★★★★☆☆

突然ですが、村上春樹の短編集『レキシントンの幽霊』をご存知でしょうか。15年ほど前は、このブログの読者の間での知名度がほぼ100%だったことで知られています。


レキシントンの幽霊 (文春文庫)

レキシントンの幽霊 (文春文庫)


…いや、なんでやねん、というと、当時通っていた学校の国語の授業で教材として使っていたから、というだけの話なんですけどね。あの当時、ここは同級生しか読んでなかったので。
村上春樹オーウェル小林秀雄…等々、教師の趣味としか思えない教材ばかりでしたが、中高を通して一番好きだった授業かもしれない。妙島先生、もう退職されて5年くらい経つのかな…。


昔話はともかく、この『レキシントンの幽霊』に収録されている短編の一つが「トニー滝谷」。孤独なトニー滝谷が妻と出会い、妻を喪い、再び孤独になる、というお話。(ざっくり)
当時はトニー谷を知らなかったのですが、タイトル自体に強烈なインパクトがあったのを覚えてます。…で、映画化されていることを知ったので観てみよう、という流れで。


西島秀俊のモノローグを中心に映像が流れるだけの前半が、かなりの不思議体験でした。まるで、映画ではなく、文学と絵画を同時に鑑賞しているかのような。
村上春樹の作品を映画化って、そもそもどうやるんだ…?と思いながら観始めたんですけど、これ、映像化に成功してますよね。実はすごい技術なのでは?


トニー滝谷が結婚する女性と、亡くなった後にアルバイトとして雇う女性が宮沢りえの2役。トニー滝谷とその父親もイッセー尾形の2役。
セリフ数は決して多くないのに、存在感があるんですよね。急にナレーションからモノローグを登場人物が引き継ぐとか、本を読んでいるかのように横へ移動していくカメラワークとか…
凝らされている技巧もちょっと洒落ていて、そこがまた「春樹っぽい」というか。原作愛が深い人が撮ったんだろうなあ、と思って調べたけどやっぱりそうだったらしい。
あと、終わり方が原作と違って、新解釈だったのも印象に残りました。孤独に始まり、孤独に終わるトニー滝谷、という原作とは余韻が大分変わってきますが、まあこれはこれで。


村上春樹、長編はあの気だるさがどうにも合わないんですけど、短編は当時結構楽しめたし、久しぶりに読んでみようかなあ。ホントここ数年は海外古典文学ばかりになってるからな…。


トニー滝谷

トニー滝谷

  • 発売日: 2018/11/01
  • メディア: Prime Video