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日本のいちばん長い日 ★★★★★★★★★★

日本のいちばん長い日

日本のいちばん長い日


大日本帝国のお葬式だからね。」


ひとくちに「戦争映画」といっても、色々な切り口がありますよね。兵士を主人公にするもの、残された家族にクロースアップするもの…。
そしてこの作品は、大日本帝国の上層部に焦点を当て、1945年の8月14日から15日まで、つまり、日本人なら誰でも知っている「終戦記念日」を描いた作品。
正確に言えば、前半30分くらいは7月26日、ポツダム宣言が発表されてから14日までが描かれていて、これが長いプロローグ。そして不意に出てくるタイトル。まずこの演出がセンス抜群。


国体護持は譲れないとする日本政府の要請に対し、回答文で「subject to」という表現をする連合国側。これを「制限下に置く」と取るか「隷属する」と取るかで紛糾する内閣。
会議のシーンが『シン・ゴジラ』の元ネタになった、という話は耳にしていましたが、実際に見ると構図が同じすぎて面白い。何十年経っても、日本の政治はこういうものなのかもしれない。


ただ、ポツダム宣言に対する政府の態度を決めかねて黙殺してしまった結果、連合国側に拒否したと受け取られ、原爆投下に繋がった、というのは重いですね。
ポツダム宣言の受諾には閣僚の署名が必要だから、陸軍大臣が辞任すれば受諾できず、本土決戦に持ち込める、と主張する部下を諌める阿南陸軍大臣
陸軍のメンツを背負っている立場上、鈴木貫太郎首相と対立せざるを得ない阿南陸相ですが、これがポーズで上手く陸軍の不満を逸らすために行っていたのか
それとも本当に本土決戦を考えていたのか、については諸説があるらしい。そしておそらくこの映画での描かれ方は前者。
最初は何を考えているか分からなかった陸相が、最期は若者に後を託して切腹する。美化しすぎ、という批判もあったらしいですが、そういう話でもないよな…。
米内海軍大臣「あと2000万、日本男児の半数を特攻させれば必ず勝てます!」と言うシーン、今の感覚だと「え、ギャグ?」と思ってしまったけど、本気だったんだろうなあ。


紛糾した末に、ようやく玉音放送の内容について決まるまでが前半。そして、それに反対してクーデターを企む陸軍の将校たちが決起し、宮内庁を襲撃して
玉音放送が録音されたレコードを盗もうとする後半。それこそ、玉音放送が実際に行われたのは日本人なら誰でも知っていることで、展開なんて誰にでも分かるはずなのに
「録音、盗まれるのか…?玉音放送はちゃんとできるのかな…」とハラハラするくらいには、後半は秀逸なサスペンスでした。黒沢年男演じる畑中の眼には完全に狂気が宿ってましたね…。


自分の印象では、戦争映画というと、どうしてもメッセージ性が見え隠れしてしまう気がしてしまって。なんというか、身構えてしまうところがあるんですよね。
でも、この作品は、「戦争映画にしては」という留保抜きで、単純に面白かった。『十二人の怒れる男』とか好きなので、会議映画である前半は好みの内容でしたし
後半も目が離せない展開でしたし。…そして何よりも重要なのは、これが、(細かい脚色はあるにせよ)全部実際にあった出来事だ、ということ。
ポツダム宣言を受諾して日本が8月15日に降伏、という事実だけなら小学生の頃には知ってたけど、その前夜にこんな攻防があったなんて、無知なだけとはいえ、全く知らなかった…。
登場人物のその後を調べていくと興味深いですね。企業の重役になってたり、潜伏したのち財団法人の理事長になってたり。意外にみんな生き延びている。


そしてキャストもびっくりするほど豪華。戦争を知っている世代が演じている、というのも、あの張り詰めたような空気と迫真の演技の一因だったのかもしれない。
宮口精二笠智衆三船敏郎志村喬…。笠智衆が演じるとすごく柔らかい首相に見えるし、三船陸相の迫力も唯一無二。そして天本英世演じる佐々木隊長の不気味さよ。
日本人として観ておくべき映画、とだけ言うのは簡単ですが、それ以前に単純に作品としても面白い。ラストのモノローグに見る反戦のメッセージ。傑作ですね。観てよかった。