- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2020/04/22
- メディア: Blu-ray
「生きることは善いこと」 その常識が覆される時代が訪れたら、あなたはどうする。 読む劇薬・野﨑まどが綴る衝撃作が、遂に禁断の映像化!
「その啓示は、静かにそっと訪れる-」 東京地検特捜部検事・正崎善は、製薬会社の不正事件を追ううちに、一枚の奇妙な書面を発見する。
そこに残されていたのは、毛や皮膚のまじった異様な血痕と、紙一面を埋め尽くすアルファベットの『F』の文字。
捜査線上に浮かんだ参考人のもとを訪ねる正崎だが、そこには信じがたい光景が広がっていた。
時を同じくして、東京都西部には『新域』と呼ばれる新たな独立自治体が誕生しようとしていた。正崎が事件の謎を追い求めるうちに、次第に巨大な陰謀が見え始め--?
Amazonプライムのあらすじを引用。不正を追っていた検事・正崎が、政治的な陰謀に巻き込まれていく…というサスペンス。
年末に公開されたエピソードがショッキングすぎて、いろいろな意味で見る気が失せていたのですが、ようやく観終わったので、感想を書いていこうかと。
作品を通してのテーマが2つあると思っていて、新域で成立する自殺法を通して「自殺は本当に悪いことなのか?」という問題提起をするのが1つ。
そして会話しただけで人を自殺に追い込める謎の美女・曲世愛が「人を殺すのは悪いことなのか?善悪とは?」という問いかけをするのが1つ。大きく2つのテーマがある。
全編を通して、先の読めない展開が売りで、良くも悪くも、最後までどうなるのか全く分かりませんでした。後半、話が世界規模に広がった時はどうなるのかと…。
取り調べのシーンを昨年度の話数単位10選に挙げましたが、前半の単話のインパクトだと昨年でも指折り。演出もかなり攻めていたように思います。
…その割には評価低いやんけ、という話なんですけど、とにかく、投げっぱなしで終わったのがものすごく残念。テーマを掲げておいて、それに答えないのは不誠実すぎる。
2つ目の「善悪とは?」というテーマについては、一応「善は続くこと、悪は終わること」という答えを正崎が出したわけですが、あまりにも陳腐ですよね…。
殺人はなぜ悪いことか?という問いに対して、生命が最も重要な保護法益であり、持続可能性がなくなるから終わらせるのが悪だ、という結論なら、最後まで引っ張る意味あったのか…?
まあ別に奇を衒った回答なら良い、というわけでもないですが、ここまで見てきてそんな普通の結論なの?とは思いました。周りの人が死にまくったからこそ出た結論かもしれませんが。
もう1つ、「自殺はなぜ悪いのか?」というテーマについては途中から有耶無耶になってしまったような。
まず、公開討論会を行ったエピソードがかなり浅くて、そこでこの作品への期待度が下がってしまったのが大きいですね。論戦しかける側も甘いし、斎側も詭弁だし。
日本では、自殺が罪に問われない一方、自殺教唆や自殺幇助が罪に問われるのはどういう理由か?というトピックがあるわけですが、その辺へ切り込んでくれるものだとばかり。
割と論理構成が難しい論点で、興味深いところだと思うんですけど、少しでも自殺に関する新たな知見とかが得られれば良かったなあ。残念ながら、それはなかったですね。
この作品の何がまずいかって、「自殺が良いか悪いか」と「人殺しが良いか悪いか」って、一見すると似ているようで、全然別のイシューだよなあ、ということ。
そこが別問題だから、斎と曲世が一緒にいても、どこかちぐはぐに見える。実際、後半はほとんど斎が出てこなかったし、結局新域がどうなったかもはっきりしない。
結局、この作品は「自殺」とか「善悪」というのは視聴者を釣るエサに過ぎず、先の読めない展開の中、ひたすらサスペンスの緊張感を維持する要素でしかなかったんですよね。
でなければ、「人と会話しただけで自殺に追い込める」なんて超能力者が何の説明もなく最後まで人を殺しまくるわけがない。整合性なんてものを期待する観方自体が間違っていた。
ただ、間違っていたとしても、やっぱり気に入らないなあ、というのが正直な感想ですね。やっぱりそれは不誠実だろう、と思ってしまう。
内容がないのに、最後までハリボテを大仰にマッチポンプして盛り上げ、トータルなら盛り上がったからプラス、というのは、自分には受け入れ難かったですね。
演出自体は奇抜だったし、割り切って楽しめれば良かったのかな。作者の作風と致命的に合わないと分かったので、次は最低でも全話終わって世間の評判が良くない限りは観ないだろうなあ…。