久しぶりに小津作品を観る。娘の嫁入りを描く、という小津作品の題材は一貫させつつ、今作の特徴はまずなんと言っても「父と娘」ではなく「母と娘」であること。
娘に原節子なのではなく、未亡人の母が原節子。とはいえ原節子が人気にならないはずもなく、未亡人を諦めきれないいい年したおっさんが3人。
今の価値観だと完全にセクハラでしかないことを延々言い続けるわけですけど、コミカルなのでどこか憎めない。言葉を繰り返す独特な小津節のおかげもあるのかな。
同じ題材、同じようなキャストでずっとやっているからこその面白さもあって。例えば、佐分利信演じる間宮がアヤ子に結婚を勧める後藤を演じるのは佐田啓二。
…いや、『彼岸花』ではあれだけ佐田啓二との結婚に反対してたやん、と。絵面があまりにも似ているので笑ってしまいますね。
コミカルなシーン以外にも、終盤で旅行に行ったおり、秋子が娘に結婚するよう諭すシーン。完全に『晩春』の笠智衆と原節子の名シーンのセルフオマージュですよね。
笠智衆がチョイ役で出てくるだけでちょっと安心感があるけど、やっぱりメインで喋ってないと寂しさもあって。別に演技が特別うまいわけでもないのに…。
そんな感じで、50年代の小津作品とはちょっとキャストの毛色が違いますが、岡田茉莉子が特に印象的でしたね。
溌剌としている様子がとても良くて、おっさん3人を完膚なきまでに言い負かすシーンが特に面白かった。遺作の『秋刀魚の味』にも出てるんですよね。次はこれ観ようかな。
小津作品の中では、単体で見ると年甲斐もなく未亡人に熱を上げるおっさん3人が面白い、くらいですけど、他の作品と比較すると興味深い点が多い、という感じ。
そして幾何学的な構図は今回も健在。カラーだと赤がとても映えるのも良いですね。冒頭に東京タワーが映るのは、赤を印象的に魅せるためだったのかな?