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劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン ★★★★★★★★☆☆

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例によって近場では上映していなかったので、遊びに行ったついでに観に行きました。TOHOシネマズ、会員カード作ってすぐ田舎に飛ばされたから会費がもったいない。おかげで無料でしたが。

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アニメ版と外伝の感想も貼っておこう。簡単にこの作品に対する印象を表現すると「映像美と表現力は唯一無二だけど、ストーリーは今ひとつ腑に落ちない」といった感じ。
当時の感想に「映画の尺で10話みたいな感動的なエピソードを丁寧にやってくれたらそれだけで価値のある作品になるはず」とか書いてあるの、我ながら先見の明があって笑ってしまうなw


今作で面白いな、と思ったのはまず構成。年代がかなり下ったあと、孫世代から伝説的な人物としてヴァイオレットを語る…というもの。
しかもそのキャラクターが「あの」10話に登場したアンの孫娘だという、ちょっとズルい展開。開始5分で涙腺を刺激しようとするのはちょっと…。


そして語られたメインエピソードは、いつもの依頼人の手紙を代筆するものに加えて、少佐との再会。
この手紙のエピソードが、若くして寿命が残り短い少年・ユリスが、家族と友人に最後の手紙を書く、というもので、率直に言って「これ、10話の焼き直しでは?」という印象が拭えず。
「映画の尺で10話みたいな感動的なエピソードを丁寧にやってくれたらそれだけで価値のある作品になる」と当時は書いたものの、実際に観ると、視聴者受けを狙ったのかな…と思えてしまった。
言うまでもなく、子供が死に、残された家族に別れの手紙を書く、なんて展開は泣きの王道みたいなもので、泣けなかったわけではない。…でもただ、やっぱりこれはちょっとズルいですよね。
生理反応として涙が出たから、ストーリーが素晴らしかったのか、というとそんなことはないと思っていて。…まあ、この映像美と音楽で劇場の音響で視聴したら感動はしてしまうんですけどね。


逆に、このエピソード周りで良いな、と思ったのが「変わっていくものと、変わらないもの」という、それこそモノクロ映画の時代から描かれてきたテーマですね。
序盤、アイリスが電話で不満を声に出してしまい、カトレアに「表情は声に出るわよ」と窘められるシーン。電話に代筆業の仕事を奪われる、と警戒するアイリス。
そしてその「いけ好かない機械」であるところの電話は、今際の際で手紙を書くために言葉を伝える時間もないユリスが、リュカに最期の言葉を伝えるという役割を果たす。


ヴァイオレットが作中で語るように、「思いは伝えないと届かない」。これはこの作品に通底するメッセージであると思っています。
そして、大事なのは「伝える」ということであって、手段ではない。つまり、手紙で伝わるのであれば手紙で良いし、ユリスのように、電話で伝わるのであればそれでも良い。
もっと言うと、今作のラストシーン、少佐への想いを伝えようとして言葉にならなかったヴァイオレット。言葉にならなくても、間違いなくギルベルトには伝わっているわけですよね。
時代が移り変わるごとに、手紙から電話へ、そしてメールへ、SNSへと手段は移り変わっていっても、想いを伝えるという本質は変わらない。実に自分好みのテーマでした。


…で、やっぱり納得できなかったのは、ギルベルトが生きていたこと。大切な人を失った人間兵器が、人々と交流するにつれて感情を知っていき、「あいしてる」を理解する作品。ではないのか。
このストーリーで、キーパーソンが生きている、というのは、前提がひっくり返ってしまう気がして、どうにも受け入れ難かったというか…。
だから、名前も変え、人知れず暮らすギルベルトが、ヴァイオレットを拒絶するところと、ヴァイオレットが「最後の手紙」と称して、想いを伝えるところまでは綺麗だな、と思ったのですが。
そしたらあの船からのダイブですよ。あの距離で声とか聞こえねえだろ、は流石に野暮だけど、再会して二人で幸せに暮らしました、は余りにも脱臭されたハッピーエンドすぎやしないかと。
あの場面でのヴァイオレットの所作が圧倒的すぎて、声優アワード主演女優賞モノだろ、と思うレベルだったのは事実ですが、それで郵便社を辞めて島で暮らしました、というのは…。
結局、郵便社の皆との絆とは何だったのかとか、結局少佐しか見えていない最初の頃と変わっていないのでは、とか、色々考えてしまう。キャラクターの設定への疑問なのかな。
ヴァイオレットは、会話の端々に冗談を挟むような描写もあり、感情は豊かであるはずなのに、あそこまで不器用、というのが不自然というか、ご都合主義に感じてしまうのかも。


色々と書きましたが、やはり作画水準は現在のアニメの中でも飛び抜けていたと思うし、京都アニメーションの丁寧な仕事ぶりは変わらないな、と再確認もできました。
慈しみに満ちたこの作品は、現代への、そしていろいろな受難を乗り越えようとする京アニ自身への祈りが籠もっている。そんなことを感じた2時間でした。