適当な日常を綴る’

明朗・潑溂・無邪気なブログ

映画大好きポンポさん ★★★★★★★★★★

敏腕映画プロデューサー・ポンポさんのもとで製作アシスタントをしているジーン。映画に心を奪われた彼は、観た映画をすべて記憶している映画通だ。
映画を撮ることにも憧れていたが、自分には無理だと卑屈になる毎日。だが、ポンポさんに15秒CMの制作を任され、映画づくりに没頭する楽しさを知るのだった。
ある日、ジーンはポンポさんから次に制作する映画『MEISTER』の脚本を渡される。伝説の俳優の復帰作にして、頭がしびれるほど興奮する内容。
大ヒットを確信するが……なんと、監督に指名されたのはCMが評価されたジーンだった!ポンポさんの目利きにかなった新人女優をヒロインに迎え、波瀾万丈の撮影が始まろうとしていた。


どうも、アニメ大好きカイトさんです。(激寒)(このフレーズを使って感想を書いているオタクが無限に存在してそう)


公開日とその週末にフォロワーが何人も観に行っており、しかも全く違う関係のフォロワーが口を揃えて絶賛していた今作。

それ以上に気になったのは、この原作者のツイート。人生訓であるところの『アイカツ!』シリーズを挙げているのは信用できる。
タイトルを耳にしたくらいの前提知識しかなかったのですが、これは一刻も早く観ないとネタバレを食らうぞ、と思い、定時ダッシュで久々に県境を超えて観てきました。


一言で言えば、作り手の熱い想いが伝わる良い作品だった。映画を作るアニメ映画、という、メタ的な作品であるがゆえの、多層的な観方ができるのも面白かったですね。
例えばジーンが編集作業をするシーン、編集の具合でこれほど印象が変わるんだな、と観ながらに実感できる、とか。撮影中のアクシデントをシーン追加で乗り切るのも面白い。
ドキュメンタリー的なリアルさと、ポンポさんのいかにもデフォルメされたアニメ感のさじ加減が絶妙で、作中の持論通りの90分の尺に収まっているんですよね。


…さて、ダラダラあらすじを書くとキリがないので、今作で描かれていたテーマの中で面白かったものを2点。1つは、全面に出ていた「取捨選択」ですね。
何かを選ぶということは、それ以外のものを選ばないということ。BUMP OF CHICKENの『同じドアをくぐれたら』にある「手に入れる為に捨てたんだ」というフレーズを思い出すなー。
そして、その選択が正しいかどうかなんて、誰にも分からない。学校で居場所がなかったジーンや、オーディションに落ち続けていたナタリーを見出したポンポさん、という構図が面白い。
選ぶ勇気と捨てる勇気。現実でも選択の連続だけど、自分が選んだ選択に自信が持てる、後悔しないような人生を送りたいよなあ、と観ていて思わされたし、元気づけられました。


そしてもう1つ、今作で自分が一番好きなシーンが、編集作業でどこを切るか迷ったジーンがペーターゼンさんに相談に行くところ。
ペーターゼンさんの「映画の中に自分を見る」というアドバイス、ガツンと頭を殴られたかのような衝撃でした。本当にそうなんだよな。この快楽のために創作物に触れているんだよな。
鑑賞していて、作品の中に自分の価値観と通底するものを見つけた時ほど嬉しいことはないわけで。だからと言って独りよがりな妄想考察になってもダメですが。


クリエイター讃歌であると共に、アランという、原作にいない登場人物*1の視点を加えることで、一般の、クリエイターを応援する、創作物を楽しむ人への讃歌にもなっているのも丁寧。
ただ、プレゼンの様子を無許可配信して一発逆転!みたいなスカッとジャパン展開は必要か?ってちょっと思いましたね。そりゃ現実でも資金繰りは大変なのかもしれないですけど…。


キャストの話をすると、昨今賛否両論のある芸能人起用ですが、今作はピタリとハマってましたね。ジーンとナタリー、アニメ慣れしたプロの声優では出せない魅力がありました。
小原好美さんのアニメ的な演技もピンズドだし、大塚明夫さんの大物感も解釈一致。そして、加隈亜衣さんが芸達者でしたね。
先日の「ひだかくま」で、おばあちゃんの声といえば、と言われるくらい長く続けたい、というデビュー当時のインタビューの話をされていましたが、まさにお姉さんからお婆さんまで。


折角なので、最後にポンポさんたちに倣い、自分も好きな映画を3作挙げておきましょうか。黒澤明『生きる』シドニー・ルメット十二人の怒れる男今敏東京ゴッドファーザーズ
邦画、洋画、アニメ、と1つずつ選んでみたのですが、我ながら分かりやすい趣味してるよな…。TVアニメもすぐこういう題材の作品にハマってしまうし。好きだから仕方ないんだけど。
十二人の怒れる男』も『東京ゴッドファーザーズ』も90分の映画だし、ポンポさん理論に適ってるやん!からの2時間半の黒澤。…まあ、『生きる』は長さとか関係なくマスターピースですが。


SNSで評判が異常にバズっている映画に関しては、自分と合うかどうかは疑ってかかったほうがいい、というのが持論なのですが、今作は幸いにも自分の好みに合うものでした。
コミュニケーションの手段や承認欲求のために創作物を”消費”している人でなく、創作物と向き合うのが好きな人は楽しめるはず。2021年を代表するアニメ映画であることは間違いないでしょう。

*1:帰宅して即Kindleで1巻を買ってしまった