適当な日常を綴る’

明朗・潑溂・無邪気なブログ

泥の河 ★★★★★★★★★★

「子供はな、生まれてきとうて生まれてきたんやない。親を選ぶわけにはいかんのや」


1982年度アメリアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。
自主製作、自主公開という小さな取り組みから始まった本作は、欧米はもとより、旧ソ連邦、中国やアジア諸国にまでその配給をひろげて、
今日でも名作として語り継がれている小栗康平監督のデビュー作。宮本輝の処女作を原作に、少年少女たちのひと夏の出会いと別れが切々と描かれる。


少し前に配信されていなくて諦めた記憶があったんだけど、なんとなく一覧を眺めてたら有料配信されていたので視聴。前から気になっていたんですよね。
モノクロ映画だけど、公開は1981年。終戦後10年が経った大阪を舞台に、うどん屋の息子・信雄と、「舟」で暮らす姉弟との交流を描いた作品。


なんと言っても、子供の演技が上手い。お父さん役の田村高廣も上手いけど、子供にはどうやって演技指導したんだろう…?感心することしきりでした。
セリフに頼らず、目で伝えるシーンが随所にあるんですよね。冒頭、食べに来た常連の客の耳が片方ないのに気づいて一瞬ギョっとする信雄、しばしの無音、とか。


「もはや戦後ではない」という評論が載った新聞を読む父親。大本営発表としてはそうでも、まだまだこのように切り捨てられた人たちがたくさんいたんだろうな、と思うと…。
戦後復興の裏の悲哀、というテーマだと、木下恵介監督の『日本の悲劇』も名作でしたが、明らかな悲劇が起こらない今作も、あれに匹敵するほどの名作ですね。


ネット社会の恩恵を受け、自分も、生きていく中で、色々なバックボーンの人と関わる機会がありますが、「この人とは生きてきた世界が違うなあ」という噛み合わなさを感じることってあって。
信雄と喜一も、いくら仲良くなっても、「価値観の差」の溝は厳然と存在している。お詫びに夜の舟に連れてきて蟹を燃やすくだりは、そういった齟齬を浮かび上がらせる名シーンでした。


そして、あの加賀まりこの美貌。度肝を抜かれるような美しさ。中盤まで声だけで姿を見せなかったのはこういうギャップを狙っていたのか、と。
お母さん役の藤田弓子との対比がとても良かった。表と裏、陰と陽。終盤、信雄が「見てしまう」シーンも、表情だけで全てが伝わりますね。よくできた作品だ…。


というわけで、なにもない連休でしたが、名作を鑑賞できたのでそこそこ有意義だったかな。明日から、また頑張っていきましょう。
…そういえば、気づかないうちにブログを3500日更新していたらしい。我ながら長く続けることくらいしか取り柄がないけど、これからもマイペースに続けていくだけですね。