武家社会の虚飾と武士道の残酷性を暴く! 浪人、半四郎の怒り!!---- 小林正樹(監督)×橋本忍(脚本)×仲代達也(主演) 全編にみなぎる緊張感、そして凄まじい壮絶な死闘!
橋本忍の綿密なシナリオをもとに、『人間の條件』でセンセーションを巻き起こした小林正樹監督が、「静と動」、ダイナミックな殺陣シーンを演出し、
『HARAKIRI』のタイトルで上映された1963年のカンヌ映画祭で激賞された衝撃作。 63年度カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞作。
1962年公開。時代劇映画はあんまり…という先入観で観始めたら、存外面白くて度肝を抜かれてしまった。自分が今までに観た時代劇映画で一番印象に残ったまである。
Amazonの解説に「静と動」って書いてありますけど、8割以上は「静」。全編に渡って、糸がピンと張り詰めているような緊迫感がありました。
「動」の時代劇が『七人の侍』や『隠し砦の三悪人』であるとするならば、「静」の時代劇を代表する作品ではないでしょうか。今作にも殺陣シーンがあるとはいえ。
江戸初期、戦乱の世が終わり、武士の生活が苦しくなってくる…という時代背景。武家屋敷に出向き、狂言の切腹を申し出ることで施しを得る、という試みが流行っていた。
井伊家はそれを認めず、屋敷に来た若い武士を本当に切腹させてしまった…という残酷なシーンの回想が前半、その真相が描かれるのが後半。
とにかく脚本が秀逸なんですよね。前半、乞食のような武士を切腹させるシーンは、確かにやりすぎとはいえ、井伊家の方に理があるように見える。
ところが、半四郎が真相を語るのを聞くうちに、浪人側の事情を知り、今度はそちら側に同情させられてしまう。そういうように作られているわけです。
しかし、観終わった後に改めて考えてみると、井伊家の取った処遇にもやはり理があることに再度気づかされる。この多層的なテーマ性が実に秀逸。
武士道が「虚飾」であるのは確かでも、それによって成立している組織があるのもまた確か。そこから零れてしまった人間の悲劇、と言えるのかもしれません。
そして言うまでもなく、このテーマは現代にも通底するもの。多数派と少数派の例を具体的に挙げるとキリがないからやめておきますが、認識の溝は古今東西存在するわけですから。
とにかくサスペンス映画としてのクオリティと深いテーマ性を両立した傑作であることは間違いない。こういう名作に出会うと、また色々観たくなるから映画っていいですね。
そろそろ今期アニメの新番組も配信サイトで出尽くしていくと思うので、そちらのチェックも進めていきたいところですが、今月は忙しくて自由時間が少ないのが辛いところ。